はじめに ── 「Jupiter」と平和への願い
先日、
私は平原綾香の「Jupiter」をピアノの弾き語りで演奏し、
YouTubeにアップしました。
この曲は、
深遠で神々しい祈りのような何かが
心の奥に響く曲です。
穏やかな心で、
それでいて強く願うような
そんな祈りがあるようです。
皆がそのように穏やかな心で
強く共通する願いは何があるだろうか。
私は「平和」だとおもいます。
しかし、
昨今の世界情勢を見ていると、
その平和が
脅かされているように感じることが
あります。
SNSのタイムラインには日々、
刺激的で、
随時更新されるインパクトのある情報が流れてきます。
心がざわざわします。
世界は本当に平和なのだろうか。
一方で、
俯瞰的に見れば、
世界はむしろ平和になっているのではないか、
という思いもあります。
以前『ファクトフルネス』
という本を読んだとき、
一般的な認識と客観的なデータから得られる評価との間には
意外に食い違いがあり、
世の中はむしろ良くなっている
という主張に強く納得しました。
蔓延している悲観的な気分から
解放されるような感覚があったのを覚えています。
だから、
目の前の刺激的な情報に惑わされず、
世界が本当に良くなっているのかどうかを
確認したい
と思いました。
検証の枠組み
── 「平和・貧困・治安」
「世界が良くなっている」を確かめるために、
3つの観点から検証することにしました。
- 平和 ── 戦争・組織的暴力で命を落とす人が減っているか
- 貧困 ── 生きるために必要な物が満たされていない人が減っているか
- 治安 ── 第三者の故意による加害で命を落とす可能性が下がっているか
検証にあたっては、ChatGPTやClaudeといったAIを活用し、
世界銀行・国連機関・研究データベースなどの一次情報をデータを集めました。
検証の方針として大事にしたのは、
「言論」ではなく「ファクト」をみました。
「戦争が危険ではないか」
「Xでこんな投稿が話題だ」
といった言論的な情報ではなく、
物理的なリアルの世界での現象です。
検証1:平和
── 戦争・組織的暴力による死者は
減ったか
指標の考え方
「平和」は、
戦争や組織的暴力によって命を落とした人の数を、
世界人口で割った値(人口10万人あたりの死者数)で
評価することにしました。
この値が低ければ低いほど、
世界は平和な状態に近い
ということになります。
検証期間は1900年から2024年。
データソースは、
1900~2000年が研究者ピーター・ブレッケの
長期紛争カタログ(Brecke Conflict Catalog)、
2001~2024年がウプサラ大学・
オスロ平和研究所の
UCDP/PRIO武力紛争データセットです。
結果
結果は、
見ての通りです。
20世紀前半の2つの世界大戦の縦に伸びる棒が圧倒的で、
その後の谷がいかに「平和な時代」かが視覚的にすぐ分かります。
1941年には人口10万人あたり334人、
つまり地球上で約300人に1人が
戦争で命を落としていた計算になります。
一方、第二次世界大戦後は段階的に低下し、
1990年代以降は10万人あたり10未満で推移、
2005年には史上最低水準まで低下しました。
2022年以降のウクライナ戦争で再上昇していますが、
20世紀の戦争期と比べると依然として桁違いに低い水準です。
ニュースを見ていると
「世界はかつてないほど危険」と
感じてしまうかもしれませんが、
データが示しているのはその逆です。
100年前の人類は、
今の私たちが想像できないほどの規模で戦争に巻き込まれていました。
検証2:貧困 ── 生きるために必要な物
指標の考え方 ── 物で測る
貧困を考えるとき、
私たちはつい「1日いくら以下で暮らしている人」
というドル基準を思い浮かべます。
世界銀行も、
1日3ドル未満を「極度の貧困」と定義しています。
しかし、
私はこれに少し違和感を持ちました。
お金がなくても十分豊かに暮らしている人も
いるからです。
お金は何かを得るための手段に過ぎません。
では、その「何か」とは何でしょうか。
私が貧困を強く感じるのは、
「これがないと安全な生活ができない」
というものが欠けているときだと思います。
具体的には、食事・水・住居の3つです。
この3つのうち1つでも欠けていれば、
それは貧困である ──
これを今回の貧困の定義としました。
「最低限あるかどうか」という基準で測ります。
豊富な選択肢の中から選べるかではなく、
生存に必要な最低限が確保されているかどうか。
これは開発経済学で
「basic needs(基本的ニーズ)アプローチ」と呼ばれている、
1970年代から国際機関が用いてきた由緒ある考え方とも一致するようです
データソース
3つの要素について、
それぞれ次のような国際機関のデータを使いました。
- 食事:FAO(国連食糧農業機関)が公表する「栄養不足蔓延率(Prevalence of Undernourishment)」。1日の必要最低カロリーを摂取できていない人の割合
- 水:WHO/UNICEF合同モニタリング・プログラム(JMP)が公表する「basic drinking water未満」の人口比率。家から30分以内に汚染されていない水源にアクセスできない人の割合
- 住居:UN-Habitat(国連人間居住計画)が公表するスラム居住者数を世界人口で割った値
結果(総合)
図2:世界の貧困
── 食事・水・住居のいずれかが
欠けている人の割合(1990–2025年)
1990年に約47%だった貧困率が、
2025年には約27%まで低下しています。
約20ポイント、
率にして42%の減少です。
世界の半分近くが何かを欠いていた状態から、
4分の1強まで減ったという、明確な改善です。
ただし注目すべきは、
2010年代後半以降、
改善ペースが大きく鈍化していることです。
COVID-19、ウクライナ戦争、
サブサハラ・アフリカでの紛争などが影響しています。
結果(内訳)
図3:貧困3要素の内訳
── 食事・水・住居のそれぞれの推移
3つの要素を別々に見ると、
まったく違う動き方をしているのが分かります。
食事(オレンジ)は、
1990年の19%から2014年に7.6%まで急速に低下しました。
しかし、その後はCOVID-19や紛争の影響で2021年に9.8%まで再上昇し、
2024年にようやく8.2%まで戻っています。
食事は最も改善幅が大きい一方で、
最近の世界情勢の逆風にも最も敏感に反応する要素です。
水(青)は、
1990年の25%から2025年には
8%まで一貫して低下しています。
最も着実に改善している要素で、
開発援助・インフラ整備の成果が明確に出ています。
住居(茶)は、
ほとんど改善していません。
世界人口比で見ると約13~14%で30年間ほぼ横ばい、
むしろ近年わずかに上昇傾向です。
スラム居住者の絶対数は
1990年の6.9億人から2020年には11億人へと増加しています。
これは都市化の進行が原因です。
検証3:治安
── 第三者の故意で
命を落とす可能性は下がったか
指標の考え方
治安については、
最初は「事故も含めた、
自分の意思に反して死亡する可能性がない状態」と
考えていました。
しかし
考え直しました。
治安とは
「第三者が自分に対して
強い害意を持って命を奪う可能性がない状態」と
と整理しました。
命への危険という視点で考えれば、
自動車事故を原因とする危険についても
治安に対する検討に含めるべきです。
しかし、
治安が想起されるイメージは
物騒な人が
善良な市民に対する危険な行為です
こうして
治安の定義を見直しました。
そこで、
事故による死亡(交通事故・建物倒壊など)は、
加害の故意がないので除外します。
一方で、
殺意のない暴行・傷害でも、
結果として人が亡くなれば
治安を害することに変わりありません。
だから、
殺人だけでなく、暴行・傷害致死、
テロによる死亡も含めることにしました。
この定義は
UNODC(国連薬物犯罪事務所)が
国際標準として採用している
「intentional homicide(意図的殺人)」の定義と
一致しています。
UNODCの定義は
「殺意または重大な傷害を加える意図を
もって違法に他人を死亡させた行為」で、
テロによる殺害も明示的に含まれています。
結果
図4:世界の治安 ── 意図的殺人率(殺人・傷害致死・テロを含む)1990–2024年
1990年の人口10万人あたり7.6人から、
2024年には5.4人へ。約30%の減少です。
低下のペースは平和や貧困と比べると緩やかですが、
2010年以降の継続的な低下は明確です。
UNODCのデータによれば、
ヨーロッパは
2002年比で殺人率が63%減、
アジアは
1990年比で36%減という
大幅な改善を達成しています。
これらが世界平均を押し下げています。
治安の感覚は、
ニュースで「凶悪事件」が
報じられるたびに揺さぶられがちです。
しかし、
人類全体の歴史からすると、
第三者の暴力で命を落とす確率は、
過去30年で一貫して下がっています。
結論
── 世界は良くなっているのか
3つの指標を並べてみます。
3つの検証結果を一覧にしてみます。
- 平和:人口10万人あたりの戦争死者数は、20世紀前半の数百人規模から、近年は1~3人まで激減
- 貧困:食事・水・住居のいずれかが欠けている人の割合は、1990年の47%から2025年の27%へ約42%減
- 治安:人口10万人あたりの意図的殺人率は、1990年の7.6人から2024年の5.4人へ約30%減
3つすべてが、
長期的には明確に改善方向にあります。
仮説「世界はより良くなっている」は、
ファクトに照らして概ね支持される、
といえそうです。
データ出典
・平和:Brecke Conflict Catalog(1900–2000)/UCDP/PRIO Armed Conflict Dataset(2001–2024)
・貧困(食事):FAO Prevalence of Undernourishment(SOFI 2025)
・貧困(水):WHO/UNICEF Joint Monitoring Programme(JMP 2025 update)
・貧困(住居):UN-Habitat Global Urban Indicators Database
・治安:UNODC Global Study on Homicide(2023年版および同データポータル更新値)
